oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

ドライブ・マイ・カー 未来にたくす

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「ドライブ・マイ・カー」見てきました。3時間あるとビビったのですが、余分な情報がないので映画館だと見れます。うん、シンプルなテーマの映画を盛りだくさんに描いているので楽しかったです。

 村上春樹の短編集「女のいない男たち」のいくつかをもとにしてるんですが、村上春樹が一貫してテーマのひとつと私が勝手に思っている、あまりにも傷ついて訴えらない心に秘めた、言えないことをどう扱うかを語っていると思いました。

 ノモンハンをテーマにした「ねじ巻き鳥クロニクル」もそうでした。

 絵でしか表現できないくて、それすらも秘されたことをテーマにした最新の「騎士団長殺し」もそうだと思ってます。

 そして、血縁がないが、娘的な女性に自分の思いや経験を託すという最近の作品の傾向がきちんと描かれていると思いました。

 彼の短編は長編への試作というか、のちの展開へのはじまりというかが多いのですけど、その長編的な展開を思索して脚本が書かれている。たいしたもんだっと感じました。

 

 濱口竜介監督作品は初めてなんですけど、彼の徹底的に脚本を読み込ませるっている手法、納得です。特にこの映画は原作の「ドライブ・マイ・カー」で俳優がチェーホフの「ワーニャ叔父さん」を演じる過程の話なんですごくあってる気がします。

 ただ、この手法は役に俳優が乗っ取られるような気がするんで、危険だなって思っています。俳優はそれをいなせるタフなひとじゃなけばダメだ。

 それに、ものすごく、つくるのに手間と時間がかかるし、誰にでもできることじゃないです。

 彼は芸術主上主義のひとだ。まあ、どんな芸術でもそういうことはあるなって思いますけど。でも、監督のエゴが目立つ、ほんと不愉快な作品もあって。

 

 今回は西島秀俊が主演で、タフな俳優さんだなってほとほと感心しました。そして、スターさんだなって思いました。この映画は彼を見る映画です。

 彼のワーニャ叔父さんも絶品でした。妻役の霧島れいかとのからみも美しくうっとりしてしまいます。男盛りって言葉を久しぶりに思い出しました。

 久しぶりの大人の男を描いた映画です。

 俳優がテーマのひとつの映画なのでチェーホフ西島秀俊霧島れいかの朗読、ふたりの聲の表現に引き付けられます。他の俳優さんの朗読も楽しめます。

 短編「シュヘラザード」の朗読も作品に入れ子にはっています。村上春樹は音楽を研究した人なので朗読にすごく合うと思う。

 

 敵役を演じる岡田将生もすごく頑張ってると思います。私は、あまり、この俳優さんが好きではなかったのですけど、宮藤官九郎の「ゆとりですがなにか」でガラッと印象変わったのですね。造り酒屋の息子である居酒屋チェーンの社員さん。すごくいい家庭で育った人、でも冒険的な人。こういう人なんだろうなって感じました。冷たい美貌を生かした色悪的な役で映画で成功してるみたいなんですけど、ピンとこなかった。

 NHKで「落語心中」の主役してましたけど、ナルシステックで見てられなかった。キャラクターに溺れるタイプの原作が嫌いなのもあるのですけど、役の選び方が間違ってるって感じました。

 でも、今回は役が彼に入っている。空っぽな男なんですけど、憎しみと苦しみで人間として本質をさらけだして、主人公の本質的な罪を問う男の役。

 私の実生活でも、あれって思う人が本質的な指摘をしてくれることが何度かありました。ほんとにその人が私にシンクロしようとするときにおこる。

 すごく、リアルでいいなって思いました。彼のそのセリフとその後の展開は納得できないですけど。村上春樹的な展開だとしても。そこは分かんなかったですね。

 でも、暴力と悪意がなかったようにされて人が見捨てられて、日常が続いていくっていうのは、村上春樹のテーマじゃないですか。コロナ下の今、みんなが必死で取り繕っていることではないですか。それが嫌なことじゃないですか。そして、それを客観的にみとめたい。訴えたい。

 それに続く道は、別に大きなことでなくて、その人ごとの小さな役割をはたせってことなんだと思います。俳優の役に通じますね。

  

 まあ、これだけだったら後味の悪い映画なんですけど。

 

 広島の演劇祭で演出する主人公の愛車を運転する女性を三浦透子が演じています。美しい風景と共に主人公と親密になるさまが描かれていきます。

 ああいう広島の切り取り方は新鮮でした。モダンなところが描かれていて。その開放感のメリハリもいい。ぜいたくな映画だと思います。

 ある罪を秘めたこの女性の境遇が映画のなかの事件でがらりと変わります。東日本大震災でもそうなんですけど、隠された悪意が色々となかったことにされました。しかたがなかった。人間は弱いもんだってことなんですけど。

 それがその人や社会を蝕んでいるのは確かだと思います。開示して共有することで何とかなることは多いのではないかな。

 

 この女性を演じる三浦透子なんですけど、演技もあるのかもですが、すごく、ふけてる。子役上りだそうですけど、染谷将太とか、レオナルド・ディカプリオに通ずる、ふてぶてしさがあります。

 いろんなつらいことを見てる女性の役なんでそれでいいんですけど。

 だから、心配になってしまうのですけど。前段の暴力に満ちた展開はそのためにあったか。そう納得できました。それが未来をたくすという結論にいたるのか。

 そして、それが俳優の彼女自身の解放になっている。演じ切ることは救いにつながるんだって祈りを感じました。

dmc.bitters.co.jp

 

 

 読み直しました。映画でセリフが繰り返されるので音楽的に読めました。

 

昔よんだんですけど、ソーニヤという名前と最後のセリフはよみがえってきました。