oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

取材する円朝「円朝ざんまい」

  円朝の語り本を読んでいると田舎の地名や様子が手に取るようにわかる。これは相当取材してるなってわかります。この前の鬼怒川の氾濫のとき、「真景累ヶ淵」の舞台であるあの辺りのジメジメ具合を読んでいたので、すごく納得しました。しかし、氾濫の多さが忘れ去られているのですね。なかったのはたった百年なのに、科学や土木の進歩はすごい、歴史は今から改変されているって感じました。古典を読む意味はそういうところにもあるかもしれないと感じました。

 かつて、谷根千というミニコミで、古い江戸の中心のひとつ谷中根津千駄木を紹介していた森まゆみさんが、故郷、谷中に育った円朝の旅を全集片手に旅した本。こんなにたくさん落語として語っていたんですね。残忍な「鰍沢」も原作だし、立川談志のおはこ、「黄金餅」も手がはいっているのか。その取材のあとを落語や旅日記、随筆から読み解いて尋ねた本です。

 さすがに多作なんで、落語として無理がある話も多く、古臭かったり、出来が悪かったりで、私だったら今はどうにも読みたくない話も多いんですけど、森まゆみさんはていねいに当たっている。そして、かつて円朝が取材した町で古きを知る人を探し出して聞き取っています。つまみ食いかもしれませんけどこういう本はありがたいです。本を片手にGooglemapで地名や店を検索して楽しみました。今もあるうなぎ屋さんのホームページを眺めたりね。それぐらい正確な描写であり、綿密な森さんの取材なのです。円朝が明治の著名人との交際を自慢にしていて、十分に自分の名声の恩恵を受け取ったちゃっかりした人であること、伊香保といった温泉をこよなく愛していたといった人柄の体温も感じられる。そして、大名題としての品格と教養、スケールの大きな人であることも実感されました。旅の相棒の元車屋さんの弟子もいたことも知りました。いだてんの宮藤官九郎、さすがの落語好きですね。車夫と落語家の関係はここにもあったのかな。

 育った谷中を舞台にした、今は語られない、円朝の僧侶であった父違いの兄への思慕が背景にある「闇夜の梅」の項、そして、やはり、谷中、根津、そして、栃木を舞台にした「牡丹灯籠」の項が面白かったです。牡丹灯籠で後半、幽霊話が下男、伴蔵の作り話で、実際は、お露に死なれた寄る辺なき新三郎の絶望に付け込んだ彼が殺したという告白は見落としていたことに気づいたな。全般に流れる、人間というものの歪さがテーマなんだということに改めて感じました。

  明治にはやった「塩原多助」で現地を綿密に取材してるにもかかわらず子孫の方はさけたというエピソードも面白いですね。空想を羽たかすことに重きをおいたのね。 森さんは円朝に代わり、しっかりと取材してます。「累ヶ淵」の舞台、常総市の鬼怒川の氾濫の多さもしっかりと取材されており、さすがですね。半島一利さんの解説で、実は森さんは円朝の本の編集もして、その後記で円朝を社会や風俗の調査報告者としていてとあって、私が感心したのはそこだよって感じました。そして、円朝がそれを土台にして、話を飛躍させることができる稀有な人だからいいなって思ったのだとわかりました。熱海のを舞台にしている落語では私が知っている地名がずらずら出ていてこのあたりも円朝が旅していたのだなと思うとうれしい。こういったエッセイは自分ができないことを体験させてくれるのでよいものです。ああ、旅に出たいって思いました。

 

 

 

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