oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

ドラマ「令和元年版牡丹灯籠」を見る 上

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 子供のとき、テレビでときどきやっていた牡丹灯籠は、どうも面白くなかった。美女のお露さんがお米さんと牡丹灯籠をもって、深夜、カランコロンと下駄を鳴らして現れるのはロマンチックなんですが。新三郎が取り殺されるとわかったら、コロッと態度が変わってお札を張りまくり、召使伴蔵お峰夫婦が、幽霊のお米に百両でお札はがしを頼まれて裏切ってしまったりで下世話に変わるので白けてしまった。貧しい生活から抜けるためにモラルを投げ捨ててしまう四谷怪談伊右衛門はわかりやすい。

 のちに原案のひとつ、中国の小説「剪燈新話」の短編を読んでやっと納得した。科挙の試験に落ちまくっている青年が、深夜、女中をつれて牡丹灯籠をもった良家の美女に会う。取り殺されることが分かって、お札を張るが、性欲に負けてはがして取り殺されてしまう。わかりやすい。ぼんやりとした成功を夢見る受験生の皆さまには身につまされる話です。お札を渡した老師は、掘り出した棺桶に一緒に入っている男を見て軽侮します。作者はいい思いがしたいという生の欲望を乗り越えて文学で名を遺したわけですから。この話は裕福なおうちが結婚前に亡くなった子どうしでお見合い結婚をさせる習慣を背景にしていて、有名な映画「チャイニーズゴーストストーリー」なんかの元ネタでもあるらしいです。その後ふたりは夫婦幽霊になって町の人を取り殺して、うんざりぎみの老師に退治されます。面白残酷なはなしです。

 作者の三遊亭円朝もここまで翻案してハタと思ったと思います。ロマンチックな牡丹の美女とみっともない男、落語としては、そこそこまとまっているけどカタルシス(浄化)がない。で、歌舞伎によくある仇討話の収束をどうにか取り入れてみたい。円朝は落語で歌舞伎を、大きな物語をやってみたかった人なんだと思います。二度目の奥さんが明治の怪優、澤村田之助の奥さんだったりする人です。で、全13夜あった長編となってわけです。しかしながら、娯楽の種類が多い現代、悠長に寄席に来る客はいない。まして、そんな二つの話をふくむ分かりづらい長編を語りつくせる力量の人もそういない。

 だから、さわりのお札はがし、大金を得ることで、貧乏と苦労でひん曲がった心根が爆発した夫婦の悲劇、お峰殺しがよく演じられたわけです。面白い話ですがカタルシス(浄化)がない。実際、今までの映像では、ほぼ、お米のたくらみを避けて、お露新三郎の純愛になっています。だからなんでしょうか、立川志の輔が下北沢で長年短縮して工夫し形で 牡丹灯籠の全編を演じ続けて普及させたわけです。それを見て、普遍性をみての今回のドラマ化なんでしょう。

 全編みてみるとこれはお露の実家、心すさんだ旗本飯島家が、一途な黒川孝助に乗っ取られる話です。たぶん、お露もお妾で主人を殺すお国も陰謀をめぐらすお米も、そして、伴蔵夫妻も封建制の犠牲者なんですね。本人たちにも気づかない心の傷を底に持っている。それが変化によって表に現れていく。そして、過去の因縁により、主君を刺してしまった孝助に未来を託す。主君とは父、社会ですね。それに対する感謝と憎しみ、苦い思いを抱いて、孝助は生きていかなければならない。そういった物語です。落語では青空を見上げる彼で終わるのですが、大人になることの象徴なんかなと思います。

 ドラマの冒頭で孝助は敵と知らず飯島平左衛門に試し切りで殺された父のことを悪し様に語ります。親に捨てられて、人の顔色を見ながら優秀に育った彼はいじけた弱い奴が大嫌いなんです。そして、剣の達人で成功者の平右衛門を理想の父として選ぶのです。今回は若葉竜也が演じているんですけど、恋愛の不条理を描いた映画「愛がなんだ」でいいなって思った俳優さんです。元は大衆演劇の子役さんだったらしいですけど、カメラマンという芸術志向の青年を演じてます。ふつう庶民性を売りにしそうですけど、すごく向上心がある人なんでしょうね。そのあたりこの青年にぴったりです。日舞で鍛えた所作も美しい。対するお国の愛人は柄本佑。このブログで紹介した「雲霧仁左衛門」でレギュラーを取っています。だから、この人も所作もチャンパラもばっちり。原作では汚らしい男ですさんだお国にリアルなんですけど、今回は決闘で終わるんで男らしいところがある役になっています。この人はお母さんゆずりの美しい体をしているのがいいですね。着物が映える。ドラマなんですけど、映像を大事にしているのが新しい東映っぽい。と。ドラマの見どころと感想になりまする。後半に続く。

 

怪談 牡丹燈籠 (岩波文庫)

怪談 牡丹燈籠 (岩波文庫)

 

聞き書きなので、 口語体で読みやすいです。近代文学の祖っていうのが伊達じゃないです。

 

桂歌丸 口伝 圓朝怪談噺

桂歌丸 口伝 圓朝怪談噺

 

 同じく円朝を語った桂歌丸さんの本です。ドラマの語りは講談の神田松之丞ですが、若手のシリアスな話を語れるスター落語家さん出てきてほしいですね。

 

 

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 このブログは、ちょっと、文章がひどいのですが。江戸時代の芸能への興味から。