映画「あのこは貴族」見てきた。山内マリコの原作、気になっていたのだけど、よその話だなって読んでなかった。それが、映画で鮮明に今の世の話なんだって見えてきた。
原作者も気に入っていってたけど、車が大切なモチーフとして使われている。これは彼女のデビュー作「ここは退屈探しに来て」の主人公の思い人が車の教習所の教師に収まったことでもわかることだけど、彼女の小説の大切なアイテムに車があるように思う。
それは田舎の退屈な街道沿いのチェーン店へのアクセスであり、帝国ホテルと東京の高級住宅地、松濤を結んでいる。その間は何物にも会わないので、いい経験も悪い経験も起こらない。ただただ、身の丈に合った安心できる場所に運んでくれる。外の風景は自分に都合のいい幻想だ。
しかし、それはよどんだところであり、その世界にあわせるためにひそかに血が流れる場所でもある。
それを岨手由貴子監督が、ひたすら映像表現の非言語で表現していく映画的映画なんである。音楽もモチーフになっているクラシックベースの印象的なメロディのリフレインを使ってリズム感がある。
水原希子、こんなに演技できるのか。驚いた。彼女は十代からモデルさんなんで垢抜けしすぎるんだけど、ちゃんと田舎に帰った時のダサいジャージを着こなして見せる。
主人公を演じる門脇麦の繊細な表現もなんだけど、みんなベストの演技なんじゃないか。相手役の高良健吾は美貌の酷薄さをよく演じる俳優さんなんだけど、いいですね。
原作もあらためて読んだんだけど、ひどく痛みを感じた。この痛みはなんなんだろうか。と、思いっていて新興住宅地を歩いていてはっとした。
お互いに隣の人がどんな仕事をしていてどんな人生をしているか分からない。関わらないでほんの切れ端だけで生きていける。しかし、尊重はされない。
だからこそ、皆はそれぞれに小さな塊の中で生きている。そこでは名前があり、ちょっとした努力も大切にされる。でも、しかし、とてつもなく、寂しくて無理もしている。そして、他者との関係性の大切さがますますわからなくなっている。そんな現代の苦しさの話なんだなって。
メジャーな公開は終わっているけど、いい映画なんでミニシアターで巡回すると思う。ご縁のある人は見てほしい。
*調べなおすと拡大公開してました。ごめんなさい。口コミで広がっております。