oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

「笛吹川」戦争ということ

  

 先日、HNKBSで木下恵介の「笛吹川」を再見した。改めて見てみると強烈な反戦映画なんだなって思った。絵巻ものを意識した部分パートのカラーがうまくいっているとは思わないけど、役者たちが汚れもあって遠景で描かれ一庶民として描かれた。

そして、主君というのはその人をも巻き込んだ共同幻想なんだってことが突き放されて描かれていた。

 しかし、今日、ウクライナの現実を見てみると抵抗というものの意義が身に染みるので、日本はアメリカという道徳的であろうとした国に占領され、朝鮮戦争が直後に起こってはやく経済的な立ち直りと国家的な位置が変わったという運があったからこそ、こういう戦争がばかばかしいという映画が描かれたと感じた。そのしらけた思いも感じた。

 原作は山梨のローカルな伝説をもとに小説をかいた深沢七郎だ。今回、主人公の一人として今の松本白鴎、市川染五郎が二十代で土屋惣藏という名前で登場する。

 どうやら、彼は武田勝頼に最後まで付き添って、片手千人切りという伝説の奮闘をしたローカルなヒーローだったらしい。

その伝説をばかばかしいと感じで書かれたのが「笛吹川」だった。

 

  物語の中と同じで惣藏は名門である武家である土屋家の分家である金丸家の分家の五男でど庶民の青年だったらしい。多くの人が戦死するなか、どんどん地位があがって土屋本家をつぎ、今川家の名門である岡部家から妻をめとる。

 そのあたりの領主に取り込まれるあたりが残酷に描かれている。

なぜなら、先代の武田家にちょっとした落ち度で曾祖父やいとこが殺されているからである。

 

 しかし、勝頼一家の不幸や盲目の勝頼の兄の虐殺、菩提寺久遠寺での僧侶虐殺も描かれて、加害者側も哀れな人々であることが描かれている。また、侵略者である上杉謙信と信玄との戦いといった合戦画面の爽快感も描かれていて、この映画は一筋縄でいかない。

 水無川の河川敷を破滅の地である天目山にむかう惣藏たち一家をふくむ長い隊列を惣藏の母を演じる高峰秀子が追っていく。その画面は、かつて見た戦前の代表作「陸軍」のリメイクなんだなってはっとする。同じく圧巻の長回し

 そして、今回は母は追いつくが、女中になった岩下志麻演じる妹の奥方さまが可愛そうという言葉で母は一緒に行くことを決意する。そして、孫と一緒に亡くなる。

 そして、最後に一人生き残った父は水無川に浮かんだ武田の旗指物を辱める。

 この映画の惣藏はのちに染五郎の代表作になる大河ドラマ「黄金の日々」のルソン助左衛門につながる役なんだなって感じた。決してヒットした映画ではないがちゃんと伝わっているのである。

 

 歴史を調べてみると、実際の惣藏の息子は生き残り、今川の縁で徳川に仕え譜代大名として生き残る。そのあたりの話は「寄生獣」の岩明明の原作の「レイリ」という漫画になっているらしい。

 27歳で亡くなった惣藏の忠義も哀れもほんものである。しかし、したたかに土屋本家を乗っ取ったのである。

人間は物語も超える。