oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

「源氏物語」物語は、なぜ始まるか。巻6「玉鬘」誘惑編

 

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大学のゼミで主に勉強してたのは「玉鬘」の巻です。なぜか、ゼミの先生がこの巻であることを発見したからですね。でも、実際、この巻は波乱万丈でとても面白い巻でもあるのです。

 ヒロインは物の怪に取り殺された女性夕顔の娘、玉鬘です。ちなみに玉鬘とは美しい長い髪のことだそうです。思いにならない人生を生きる彼女を髪の流れにたとえた歌があるからだそうです。彼女は源氏の友人、頭中将の娘さんなのですが、正妻がこわい頭中将がぐずぐずしているあいだに、侍女で地方役人になった夫を持った人にひきとられ九州でそだちます。そして、たいへんな美女に育った彼女は地元のいやらしい金持ちに結婚をせまられます。忠義心のあつい侍女の夫もなくなっていて、絶体絶命、侍女家族ともども京都に逃げ帰ります。しかし、都のご縁も薄くなった一家は、奈良の長谷寺に救いを求めて参拝する。そこから、話がはじまります。

 この導入の長谷寺の参拝編がすばらしい。長谷寺の参道は、にぎやかで有名でした。古代から交通の要所で宗教上でたいせつな場所でもあります。今はぼたんの寺として有名です。平安の様式をのこした階段状の屋根付きの参道から美しい花々をめでられます。

 平安当時、お堂でお経をとなえながら、何日も雑魚寝して願いを祈願したようです。その真っ暗な男女入り乱れて雑多な中、侍女のひとりが、確か、おトイレに立って、ある人と再会したのです。その人は、源氏に引きとられていた夕顔の侍女でした。彼女も姫君を心配してお参りしていたのです。このあたりの風俗をまじえた描写いいですね。ぐっときます。

 そして、美しい姫君に再会した侍女は、父の頭中将に会わせるために源氏に後ろ盾を頼むのですね。そして、表向きは源氏の娘としてひきとられます。田舎の落ちぶれたお姫様なんて相手にしてくれないからです。

 とにかく、美しい姫君なので源氏はわくわくします。苦労をしたひとですから聡明です。明るい人柄もすばらしい。侍女はあんなすてきな夕顔さまが生きていたら、源氏の妻のひとりとして大切にされていた、ましてこんなに美しい娘さんなんだからと源氏をそそのかします。りっぱな父として仮想している娘は、その立場がつらくて辛くてたまらない。源氏の娘なので求婚者もどんどん寄ってくる。いつ、ほんとの父に会わせてくれるのだろう。そこのやりとりが滑稽でたまらないです。

 娘扱いだから求婚者とちがい、美しい姿は見放題です。そして、ある晩の暗闇のなか、源氏は後ろから玉鬘を抱きすくめます。そのとき、はっとします。骨格が夕顔とそっくりなのです。母と違い、かっきりとした美女なのですが、体は似ているのです。夕顔との情事を思い出すのです。

 ゼミの先生はこのところを何度も説明していました。紫式部はほんとにすごいと。母の若いときに娘は似てくる。それは妻の若いときを思い出させる。私はは娘がいるから、そのどきっとすることがわかる。女である紫式部はなぜわかるんだ。中年期の父と娘の関係にあることらしいです。それは中年期の男におこる若さへの執着が底にあるのではないかなと、今の私は思います。若い日に愛した妻への情熱です。先生は人生をかけて、そのことを発見した。たったそれだけって思いますか。以前に書いた通り、研究とは人々の知の集合知なのです。なぜ、ストーリーが行ったり来たりするのか。源氏の人柄が一定ではないのはなぜか。この物語は小説というもののできていく過程であるのがなぜか。

 そこで母恋いの物語に隠されていた父と娘の関係が浮かび上がってきます。母に似た女性と結婚する。そして、妻に似た娘に執着する。どちらの関係にも生身の人間では満たされない思いがあります。

 この中年期の男のまなざしが、あたらしい悲劇を生みだします。「若菜」上下の巻です。玉鬘はコメディですが、若菜は痛切な悲劇です。ゼミの先生は若菜がわかったら、源氏物語がわかるんだとおっしゃってました。で、若菜の巻へ。

 その前に蛇足ですが、玉鬘のその後を記しておきます。源氏が怖くなった玉鬘は実の父に会うことを直訴します。このあたりが人生を切り開く勇気のある玉鬘のいいところです。ほかの源氏研究の先生も玉鬘が大好きでした。女子大生にあらまほしき人物像ですね。そして、ふたりの父のつてを使って、宮中にあがって天皇の侍女になります。ですが、ひげ黒というごっついおっさんと結婚してしまいます。結局、パパ的なしたたかな人につかまるのですね。ほんと紫式部は底意地が悪い。苦労を切り抜けていくのが持ち味のヒロインなんで物語的には正しいんですが。子育てが終わったら宮中に再就職するとこなんかも、女子大好みですね。

 若菜は陰気で不気味な女三宮の物語です。続く。