岡本綺堂の小説でいいなって思うものの感想を書いてみようと思う。
まず、アンソロジー「山怪」に載っていた「くろん坊」。
働き手の優秀な息子が僧侶を志したことを許した山深くに住む貧しい一家に起こった悲劇。江戸時代の貧しさつらさがにじむ出る話。
「小坂部姫」
舞台は京都双ヶ岡。歌舞伎である忠臣蔵に出てくる、かの塩谷判官の妻に横恋慕したという高師直の娘である小坂部姫をめぐる話です。恋に悩む父を助けようと、娘は代筆を頼もうと恋人の采女と双ヶ岡の兼好法師を訪ねます。霧深き双ヶ岡を舞台に宿命から逃れようとする乙女。彼女は恋人の采女と結ばれることを願うが、悪しき家族や家来に邪魔され、家がほろび悪魔に魅入られます。
そして黒猫の血を飲み姫路城の祟りなす主となります。
戦乱の時代の残酷さとしっとりと濡れたわびしい荒野の霧の中の怪異、美しい絵巻のような小説。
岡本綺堂はアマゾンからも読めるし、青空文庫にもあるので短編をふわっと楽しんでほしい。
歌舞伎や江戸文学の教養があるともっと楽しめそうだけど、難しくはない。人の美しさへの視線は本物だと思う。そして、古き世への懐かしさとおぞましさへの記憶がある。