oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

「戦慄の記憶 インパール」初めて見えた記憶

 

 昔は戦場ものを避けてたのだが、映画「野火」を見てから、これは私の人生でいつか見た記憶だなあと感じられるようになった。そして、このドキュメンタリーをぼんやりと見始めた。まず、インパール作戦についてまるで知らなかった。そのなかで、二十代前半の将校さんが記録した、軍部幹部の愚行の数々、そして、食人がおこなわれた悲惨な戦場のありさまが語られる。戦記や生き残った兵士の証言や幹部の息子さんが頑張って残した父の書類が、その記録を裏付けていく。

 マラリアに倒れた若き将校は戦場に打ち捨てられて、俺も喰われるかと書き記した手記をポケットに入れた。それが、イギリス軍にわたって公開されたらしい。最後に、老人介護施設でぼけぼけになった車いすの老人をスタッフが訪ねる。その話をすると、老人はかっと目を見開いて、命がよみがえる。「見つけてくれたか」と語る。彼は一度も、家族にも周りの人にも過去を語らなかったらしい。

 それを見て、思い出したのは村上春樹の最新作「騎士団長殺し」の隠された絵を描いた老画家が、その絵を問われたときのシーンだ。この小説は、作者の戦争について沈黙を守った父の最後を描いていると思っている。隠された、打ち捨てられた言語化しできない思いを発見する。戦場に父なるものを送った人々の共通の願いなんだろうと思う。そして、夫なるものを。老人と同世代の橋田寿賀子さんがこのドキュメンタリーにいたく感銘を受けたらしい。父なるものとは何か。それは社会のシステムに通づるものかもしれない。村上春樹のスピーチで語られた「卵と壁」。みんなを自然の脅威や戦いから守ってくれる壁。それは何かしらの等価交換を欲しているような気がする。そんなことを感じながら、見ていた。その等価交換は今でも常に行われていて、卵でしかない生身の私たちをそこなっている。そんなことをこの夏感じている。

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