oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

フランス革命を生き延びた男 ツバイク 「 ジェゼフ・フーシェ 」

 映画「グランドブダペストホテル」が、ウィーンで生まれ育ったツバイクの人生を モデルにしたと知って彼の小説を読んでみた。池田理代子さんがツバイクの「マリーアントワネット」を「ベルサイユのばら」の参考にされていたので、以前から、読んでみたいと思っていた。「ジョゼフ・フーシェ」も、司馬遼太郎の本に引用されていたので、興味があった。しかし、フランス革命を生き抜き、ナポレオンに仕え、裏切った男の話である。こんな気持ちの悪い男の話はなあと思っていたが、読んでみると、なんと、普通のよき夫父でもある人であろうと共感を感じた。フランス革命後、失脚して、貧乏をした彼が、幼い子どもたちを無くした事、そして、ナポレオンの戦争に反対したときの夫人の命がけの献身は深く同情を感じた。もちろん、ツバイクの書き方がうまいのである。それでいながら、優秀ではあるが、子供の頃から、修道院で苦労し、子供たちを教える貧乏な教師だった男を、こんなにもしたたかで、薄気味悪い政治家にしたフランス革命のものすごさを知った。

 フランス革命と、そして、その後をまとめた英雄ナポレオンの起こした戦争で死んだ人は、100万人以上だったらしい。それが、たった15年ぐらいで起こったのを知ったのは、驚きだった。フランス革命って、そんなにもひどく人々の運命を変えたものなのだ。だいたいフーシェ自体も、独身の貧乏な修道士から、億万長者で、ナポレオンと渡り合う警務大臣オルトラント公爵になる。彼は、ロベスペエールやナポレオンと戦い、ナポレオンの妻、ジョゼフィーヌまでに情報を提供させるスパイ網をつくり、ついでに大金をもせしめる。しかし、一方では国を憂える愛国の政治家であるのだ。

 私が読んで感じたのだが、彼には二つの転機があるように思った。ひとつは、ロベスペールの妹の恋人になり、その結婚をロベースピエールにじゃまされたことだ。苦労しすぎてひねくれたところが嫌われたのだと思う。そこで、それまでの彼の賛美者にすぎなかったフーシェは、ひとりの政治家として一本立ちしたのだ。そして、もうひとつは、リヨンで革命に反対かもしれない人々の大量虐殺を指示したことだ。それは、革命の正義にかられ、そして、死への恐怖にかられて行ったことのようだ。そのことが、フーシェの人生に一生影としてつきまとっていたように思う。だから、彼は、政治をもてあそび、陰謀をめぐらすことを選んだ。こんな彼だが、結果として、血塗られたナポレオンの戦争を止めることに貢献したことはまちがいない。

 私は、フランス革命はほとんど知らなかったけど、この小説は夢中になって読めた。それは、たとえば、タレーランとは、どんな人かといった説明がとても分かりやすく書かれていて、知識がなくても、その人が浮かびあがったからだ。また、フーシェの平凡なところ、良きところがきちんと描かれていて、彼の悪も私たちとかわらない愚かさからできていることが、納得できる。ドイツ語の翻訳も、2011年に秋山英夫さんによって、改訂されて、より現代的になっていて、うれしい。フランス革命とは、フランス人とは、ヨーロッパとはと、好奇心をかき立てられる小説だ。人々にしずかに読みつがれていくと思う。

 

ジョゼフ・フーシェ―ある政治的人間の肖像 (岩波文庫 赤 437-4)

ジョゼフ・フーシェ―ある政治的人間の肖像 (岩波文庫 赤 437-4)

 

 

 

 コメディの形でツバイク自身にせまった映画です。