oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

水の匂い 宮本輝

 庄野潤三を書いていて、対照的に浮かんだのは宮本輝だ。同じように、川の近くで育ったからだと思う。庄野は、戦前の船場のボンボンたちの文化のなかでそだったけれど、宮本輝は、戦後の焼け跡の荒廃がのこっていた川そばで生まれた。実際は淀川沿いだったらしいけど、「泥の河」では、土佐堀川ぞいになっている。その土佐堀川ちかくに、庄野潤三の実家はあったらしい。もちろん、庄野も戦後の焼け跡も、大阪のど貧乏もみていたけれど、それを描く方向の作家にはならなかった。東京にでて、新しい都市文化を描く作家になっていったのだ。

 私が、宮本輝を知ったのは、映像からだ。小栗康平が映画化した「泥の河」だ。父のマージャン仲間の大阪のおっさんたちの間で、戦後の大阪が描かれていると、えらく評判になっていた。で、父に進められて、映画を見た。父は、おもしろかったけど、あんなに暗くなかったといって、不満そうだった。見てみると、白黒で、上品な映画だったので、猥雑さが足りなかったように思う。それ以前に、父は、彼の若いときに撮られた、長門裕之が主演の、釜ヶ崎当たり屋を描いた映画などをみていたので、うそっぽいと不満だったのだと、最近に、その映画を日本映画チャンネルで見て思った。しかしながら、のちにカルトな映画作家になる小栗康平の資質と、宮本輝の奇妙な味わいの資質が出た、面白い映画だった。加賀まりこも本当にきれいだった。

 その後、「道頓堀川」、「蛍川」を読み進んで、「避暑地の猫」あたりまで読んでいたいように思う。あとは、悪をえがくのに、あまりにきつく、ときどきしか、読まなくなった。彼の作品を読んでいて、感じたのは、海からのひそやかな風がなぐ、大阪の湿気の多い夏のけだるさだ。真昼なのに暗い。下町など、自営や、職人が多い地区では、大人は、外で働いていて、昼寝をしている老人が多い。だから、夏はとても静かだ。しかし、子どもは、路地で蝉を捕ったりしている事が多かった。そこで、公園や神社のくらやみで、浮浪者にあったりすることがあったりした。そんな隠された闇の深さを感じさせる作家だ。そして、大阪はそんな異世界を感じさせる町だった。

 大阪は、東京や京都以上に同じ土地での階級の多層性を感じる都市だ。それは、海辺の町であることと、運河に囲まれたせまい湿地に作られた町だからだと思う。そこが、面白い。そして、宮本輝は私にとって、気になる作家であり続けている。

 

蛍川・泥の河 (新潮文庫)

蛍川・泥の河 (新潮文庫)