ニコ・ニコルソンの「古オタクの恋わずらい」がいたくて面白い。古風すぎる題名をみてぴんときたのだがこれはホラー漫画家の伊藤潤二の最高傑作のひとつ「死人の恋わずらい」をヒントにしたんだなって思っている。「死人の恋わずらい」はたぶん不幸だった作者が渾身の丁寧さで絵を描き、人を恋し求める暗黒を描いたもんだと思う。
「古オタクの恋わずらい」作者のかつてのオタク高校生時代を恋愛ものとして描いたものだ。この漫画が最近書かれているあまたのオタクの恋愛ものと違うのは、今のオタクが勝ち取った喜びとオタクの暗黒面をも描いていることだと思う。
私がニコ・ニコルソンを知ったのは東日本大震災を描いたエッセイまんが「ナガサレールイエタテール」だ。人の暗黒面をふくめて震災の被害を笑いを含めて描いたもので面白かった。
いわゆるエッセイ系の漫画家さんで行く人と思っていたが、少女漫画の流れが強いかたちで創作の連載を始めたときは驚いた。彼女の美術専門学校の青春をえがいた「でんぶばんぐ」面白かったですよ。
そして、満を期してメジャーなKissで連載したのが「古オタクの恋わずらい」だと思う。
登場人物がとても魅力的だ。ヒロインがふたりの男の子に恋されるが当然の魅力的なキャラになっている。
そして、一見オタク嫌いの主人公の思い人のキャラがいい。かれはどういう人生を歩むのだろうと気になって気になって。
そして、つっぱってるときとプラーベートの時が描き分けられているけど、どっちも好きなんだっていうヒロインの気持ちが伝わってくる。
オタクの嫌な部分、これは深刻すぎるんだけど、不幸からオタクにのめりこんで、周りを不幸にする姿もきちんと描かれているのがいい。いますな。借金背負っていたりね。お金せびったりね。
今回のコロナ禍で女性の自殺が増えた原因にイベントが中止になったからっていう説があって、それはあるかもって思う。
それぐらいぎりぎりの生を何かしらのオタ活で支えている人多いと思う。きっちり結婚して子供産んでっていうけど、それに導いてくれる何かはどれぐらいあるんだろう。
そして、そういったメジャーらしい道が喜びばかりでないと見えているのに。
オタクというのは必要だから発生したのだ。
この漫画のいいとこはそれだけでなく、オタクの地道な活動が多様性を認める方向に進み、みんなが楽になっていることを描いていることですね。
私も旅行したとき、路面バスで鬼滅の刃のビニールバックをかっこよく持ってるおばあちゃんを見たとき泣きそうになったもん。未来はよくなってほしい。そういう作者の冒険が心地よい漫画なのだ。
青春時代、主人公と思い人の関係が破綻し、もう一人の不幸な男の子が現れる三巻は傑作だと思う。ほんとつらいけど、わかる。
こっちも見てほしい。切実な不幸が迫ってくる。伊藤潤二先生が素晴らしい人と結婚して今は幸せだけど、面白い漫画を描き続けているのも励まされる。