oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

初恋の悪魔 最終回


初恋の悪魔、面白かったです。脚本の坂元裕二が生まれ変わった感じがしました。前の「大豆田とわ子と三人の夫」も特に岡田将生が良くて好きだったけど、配役の力を借りて更新されていた感じがしました。

 最初、仲野太賀を目当てに見てたんだけど、もちろん、前半の松岡茉優に対する感じがとても良かったんだけど、最後は林遣都がさらった感じがします。

 最近の林遣都は「おっさんずラブ」の成功もあって癖のある脇で行くのかなと思っていたんだけど、そうだ、この人は主人公デビューだったんだと改めて思いました。

 休職中の刑事、鹿浜鈴之介役なんだけど、これが作者である坂元裕二と被っている役だと思いました。人と違うそのことで孤独の中にすんでいる人なんですが、仲野太賀演じる馬淵悠日が署長である男に紹介されて会うのですが、どうやら、署長は彼が自分を救ってくれる可能性がある人だと思っていたようなんですね。それは兄を亡くした馬淵もかもしれないと。ドラマを見ていくとその気持ちがわかってきます。

 

 そうして、ふたりは松岡茉優演じる心に傷を負った女性を好きになる。その傷はどうやら署長も関係しているらしい。

 

 松岡茉優、すごく才能のある女優さんだと思いました。

かつての坂元裕二の「問題のあるレストラン」でも輝いていましたね。

そして、仲野太賀と林遣都とキャリアの最初のころに共演もしています。林遣都と時代劇で恋人役もしています。

 

 

 話はずれるんですが、その原作である「銀二貫」は高田郁の描いた画期的な時代小説です。宝塚にもなってます。

 

 まず、江戸時代の大阪商人の世界が舞台であること。寒天が改良されて、ようかんという新しい菓子の材料になった史実を基に描かれていること。そして、仇討ちで浪人になった男の幼子が商人になったこと。その子をひきとった商人と番頭がたぶん同性愛者であったこと。そして、ヒロインが大火で記憶喪失になり、顔に傷を負った娘であること。特に高田郁の小説は「みおつくし料理帖」もそうですが、神戸の震災の影が濃いです。

 新しい歴史研究をもとに江戸時代の大阪の商人の世界と人情を再構築した小説です。

それを林遣都松岡茉優を主演に津川雅彦塩見三省を脇に添えたこのドラマは良かったです。ほぼ、中高年ぐらいしか見てなかったと思うけど。

ああ、この二人をまた見てみたいって、私は感じました。傷持つ人を受け入れる物語を見たいと思いました。

 

初恋の悪魔の前半の仲野太賀との物語も同じように受け入れる物語です。それは体が受け入れる物語、そして、後半は頭が受け入れる物語です。そちらは作者の影が濃いですが。

 

 

 今回の松岡茉優は二重人格者です。一方の人格は社交性があって明るい馬淵を愛している。馬淵は彼女の二重人格を許せる包容力のある青年です。鹿浜も彼女に魅せられる。しかし、健康な馬淵の支えこそがふさわしいのです。

 しかし、連続殺人の冤罪事件の真相がわかってくるうちに、松岡茉優演じる星砂は別の人格になって鹿浜が好きになる。彼女の傷を取り除く人として愛しく思う。

 

 これは女優の演技とプライベートの暗喩ですね。日常と非日常との対比でもある。鹿浜の初恋は幻想の中でかなえられる。

しかし、事件が終わると失われるのです。

 そういった自分が全部はひきうけられない他者をどう理解し共存するか。犯罪が舞台になっているのも理由があるように感じます。

 

 これは作者と演者の話ともとれる。惚れなければ、その人を知らなければ、その人に当てはまった物語は描けない。そして、その体を通して受け手の心を慰められない。しかし、それはいつか終わっていまう幻想なのです。

 

 また、演じるとは誰かになってみたい演技者の冒険でもある。刑事にも犯罪者にもなれます。それは、別人格を演じるロールプレイングのようなもんだ。しかし、物語に乗っ取られて操り人形になってはいけない。これも終わらなくてはならない話です。

 

 初恋ってなんでしょうね。他者のなかに自分を写す試みだとも思う。彼女の中にある自分が好きなんです。それを極めてしまうと必ず生身の他者に行きあたってしまう。

 

とりとめない話になってしまいましたが、結構複雑で多面的な物語で楽しかったです。

 

その作者を投影した林遣都の鹿浜が愛が受け入れられて、それが夢がうつつかわからないシーンは美しかったです。それが耳かき一杯のなぐさめだとしても彼は孤独を受け入れ、思い出と共存して生きていくんだろうと思わせてくれました。

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