oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

岡本綺堂 人の心に潜むもの 展開

私が子供の時大好きだったアニメ「九尾の狐と飛び丸」の原作が岡本綺堂と知ったのは、波津彬子さんの漫画「玉藻の前」だ。それについてはブログ書いてるんで貼っておきます。その後、色々知って見方も変わったのでそれも書いてみます。

 

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まず、九尾の狐の話が日本オリジナルになったのは室町のおとぎ草子が初めらしいです。中国の九尾の狐の話と保元の乱の原因とされる鳥羽上皇中宮である美福門院の話と那須殺生石を結びつけた物語です。

美福門院は前の中宮である待賢門院から、夫をうばった悪女とされています。

高野山に行ったとき、評判を本人もすごく悩んでいたらしく、晩年は高野山で仏門の修業し、御陵もそこにあることを知りました。あの当時の貴族の多くは仏門に入っても京都ちかくの比叡山あたりでお茶を濁していました。和歌山くんだりまでくるのは本気の修行だったということらしいです。

 

しかし、歴史を読むと問題があるのは鳥羽院と待賢門院であることがわかります。待賢門院は鳥羽院の祖父である白河院の養女で、長男である崇徳院白河院の息子であるという噂が立っていました。

というのは、貴族の日記にあるのですが、白河院が着物の中に幼い待賢門院を抱いていたという性的虐待の記録があります。また、結婚する前にいろんな若い男をつまみ食いして、その人たちが追放され、息子の嫁はいやだと断ったという記録もあります。

 

祖父が亡くなった後、鳥羽院は待賢門院を追い出しました。そして、長男を苛めぬきます。それが保元の乱の遠因のひとつです。

庶民はそんなことはわからない。

でもまがまがしいと歴史を感じたので、九尾の狐と保元の乱が結びついたんだと思います。

 

このお伽草子の中では、後の保元の乱平治の乱のころ活躍した、三浦義明上総介広常が、九尾の狐を退治します。室町のころは軍記物の英雄として認識されていたようです。「鎌倉殿の13人」を見なければ、どんな人たちかわからなかったです。三浦義明は義村の祖父で広常よりずっと年上です。年齢はむちゃくちゃです。

 

この古い話を岡本綺堂はフランスの文豪ゴーティエの短編「クラリモント」をヒントに恋愛小説として再構築します。「クラリモント」は岡本綺堂自身の翻訳があります。青空文庫にあるのでただで読めます。芥川龍之介の翻訳もあったみたいです。

 

クラリモントという吸血鬼が修道士の男性を誘惑する話です。クラリモントがお城に住んでるみだらな行いをしている娼婦であるという噂が師匠から語られたり、誘惑後、主人公は昼は敬虔な修道士で夢の夜の中でベネチアで放蕩の限りを尽くしたり、なかなか生々しい話です。

 

キリスト教の信仰と放蕩の話なんだと思います。この小説は吸血鬼ものの原点のひとつみたいです。

だから、向こうでも何度もリメイクされているようです。原作は女性が誘惑の象徴で感情が描かれず、いささか古いです。ただただ、幻想的でロマンチックな話だと思います。

 

この修道士の話と九尾の狐のはなしを結び付けて恋愛小説として再構築したのが「玉藻の前」です。

まず、違うのは、玉藻の前は、かつて宮中に仕える武士の娘で父が宮中に現れた九尾の狐を討ち損じたため貧困にあえぎ、当時の大貴族である藤原忠通に美貌をもって仕えるという話であることです。

主人公はその娘である藻(みくず)を慕う幼馴染の少年です。貧困を背景にした青春の恋愛の話です。狐の呪いを基にしたホラーとしてもすぐれていると思います。

彼女は狐にのろわれ、色と呪術をもって関白家の兄弟である藤原忠通と頼長にいさかいを起こします。

陰陽師である安倍家の弟子になった少年は、必死に彼女を助けようとしますがという話です。

主人公は妖艶な彼女に愛をせまられ、純情な彼女にすがられます。純情な彼女は、そっくりな三浦義明の娘である衣笠とのちに知れます。歴史を知ると三浦義明が討ち死にした衣笠城にちなんだ名前だとわかりますね。だんだん、彼は衣笠に心を移していきます。

玉藻の前になった藻は雨ごいの力でついに宮中に入り込もうとします。

この小説の好きなところは玉藻の前は主人公を愛しているところですね。衣笠にしっとしたりしている。その執着ゆえやぶれる。

ただ、たぶん、東京人としての歌舞伎や戯作の教養を前提にしている小説なんで、今よむとわかんないとこ多いです。それでも心を打つのは、かつてあった貧困ゆえにさかれた愛の記憶だと思います。

 

この小説は傑作なんでアニメの原作として採用されます。それが私が見た「九尾の狐と飛丸」です。元々、大映増村保造若尾文子のために建てた企画が元だったようです。

だから、アニメ関係者と映画関係者が混じっている珍品です。テレビではね。かつて何度もやってたんですけど。原版が失われたみたいです。

このアニメが印象に残ったのは悪をなす人はある一線を超えると戻れない。人と理解しあえないということです。

なんでも、この作品は「太陽の子 ホルスの大冒険」のあとの映画だそうです。びっくりするね。ホルスの悪女で改心するヒロインのヒルダは画期的だったのです。それを進める形のヒロインですね。実写で若尾文子の演じたようなヒロインをアニメでやってみたんだと思う。

「映画の國」というサイトで詳しい解説があります。鈴木英夫という大映の監督が深くかかわっていて、そのコラムにあります。「横溝正史シリーズ」や「傷だらけの天使」にかかわった人みたいです。「九尾の狐と飛丸」で検索してみてください。そこで漫画化作品も紹介されていました。わたなべまさこ版もあるみたいですね。

 

岡本綺堂は大衆作家ですが、幕臣の子孫で中国の文学に詳しく、新しい西洋の文学と江戸文学や歌舞伎とをつなぐ大事な作家さんなんだなってつくづく思います。彼は西洋的な恋愛を伝統的な文学につなげようとした人だと思います。

 

中公文庫で2019年に出てます。読んでる人増えてますね。