oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

「ベイビーブローカー」冥界からの視線

 


 「ベイビー・ブローカー」見てきました。赤ちゃんポストがテーマなんで社会的な話なんだけど、とっとさに出てきた感想が面白いだったので、なんと不謹慎と感じたのでブログ書いてみます。

 最近の是枝作品、かつての倍賞千恵子倍賞美津子が出てた70年代の松竹映画の匂いがするのですね。犯罪者的な人物がガチャガチャ出てきて、赤ちゃん泥棒なんか普通にいそうな感じです。代表的な人物は寅さんなんですけど。

 貧乏でガチャガチャした汚らしさもそんな感じです。しかし、コメディで軽くいなせない。重大な犯罪が起こっているのもありますが。

 愛すべき人たちの生態を面白おかしくって、上から目線で大きな出来ごとの一コマなんだという感じです。当人たちにとっては痛みを感じるんだという感じかな。

 そういうみじめな悲劇なんですが、冥界からの視線のような遠くで起こっているような感じがあります。視線が遠いからそんなにずっしと心に食い込まないから、共感性は低い。今回の映画はそれがぐっと進んでいる感じがします。

 その分エンタメでカラフルなんだけど、でも、問題は後味のように感じられます。

 ああ、そうだ。是枝監督はドキュメンタリー出身なんだ。そう思い当たりました。そういう、視線を武器に暗く濁った人間のありさまを映すのが得意な監督なんだって思い出しました。

 デビュー作の「幻の光」後年みました。原作は宮本輝の泥の河などの三部作の後作だったので見ませんでした。このころの宮本輝は、自伝ものに転換する過渡期で、ずず暗く、大衆的な読者を失いつつあるころだと思います。覚えているのは平幹二郎でドラマ化された「避暑地の猫」かな。ともかく暗い。だから、避けたんだと思います。

 実際見てみるとみる人を選ぶ映画で、才能ある人のデビュー作にありがちな毒のきつい映画でした。でも、川崎でロケした主人公たちの貧困生活の描写が忘れられなくなる映画です。美しい。柄本明が出てるのも印象的。万引き家族でも柄本明は重要な役で出てました。あの映画は一つの総括だったのでしょう。

 小説「幻の光」は短編で、自死した夫に妻がその後の人生を語るという視点で描かれています。実はこの小説のモチーフは宮本輝が子供のころ父と能登を旅した体験で記憶がぼやけている。この短編ごろから彼の自伝的な大河小説がはじまるらしいです。すでに泥の河がそうなんですけど。

 是枝の映画はその子供の視点を大事にしてる。子供からみえる両親というのが彼のモチーフの一つだと思います。

 

 この流れで遠くこの監督は来たのだな。今回の映画は韓国の歌手で俳優のイ・ジウンの映画デビュー作です。彼女がすさんだ女の中から母性を浮かび上がらせる変化がすばらしい。美しいうるんだ瞳の美女で演技もうまい。松岡茉優に似てる。ずっと感じてました。そういう表情を求めらたのかもしれませんが。

 支える男優賞をとったソン・ガンホはみんなが見たい父性があって、でも弱くて気さくな男です。かっこよくて誠実なカン・ドンウォンもいい感じです。

そして、強くてきっぱりしたぺ・ドゥナ。彼らのかつて見た映画のおなじみの役を感じさせるサービス精神がいいです。

 彼らが旅する車外で変化する韓国の田舎の風景も見ものです。どんどん変わる。そして、高速鉄道の車内も出てくる。盛りだくさんです。

 それらのことが愛しく苦く遠い。そんな映画でした。

 

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