oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

「源氏物語」物語は、なぜ始まるか。巻8「宇治十帖」テーマは繰り返される。

 

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 源氏物語のラスト、「宇治十帖」は紫式部の作品なのかと、ずっと源氏オタクのなかで言われています。というのは、登場人物が欠点のある人ばかりであること、今までの華やかさがないからだと思います。書き切れてないところも多いですし。でも、今までいろんな形で源氏を読んできた私としては、紫式部が書いたんじゃないかと思っています。

 現代訳もある瀬戸内寂聴さんは宇治十帖は紫式部が書いた、私が出家したからわかる。出家という形で世の中から一歩はみだしたからだって言っておられます。それはわからないですが、晩年、近松門左衛門がそれまでの男女の痛切な愛情を描いたものから、一転、不条理劇「女殺し油地獄」を書いたように、しがらみから居直って、書きたいものを書いたんじゃないかと思います。まして、長編の書き方も見つけたわけですし。

 ちなみに「女殺し油地獄」は陰気な話ってことで、明治まで舞台にかからなかったらしいです。私は好きなんですけどね。映像で見たんですけど、人形が油にまみれてのたうちまわるのがすごい芸を感じます。この前見た、五社英雄の映画も好きですね。樋口可南子藤谷美和子の演技がすばらしい。だいぶ、翻案されていますが、原作の力が演技を引き出してます。

 宇治十帖は設定が最初から決まっていて、とても、近代的です。祝祭的な最期がないのも特異です。最初の登場人物は宇治の別荘に暮らしている不遇な皇族と母を亡くした二人の娘です。ここで、あれって思いませんか。若菜のふたりの皇女の話が繰り返されているんですね。

 女二宮の息子、薫は生まれのためか悩みがふかく、教養人である八条宮のところに学問や仏教を学びにいきます。そうしているうちに娘のひとり大君に恋をするのですね。ところが彼女は男嫌いで、彼を拒んで死んでしまいます。なぜか、近くにいる父がろくでもないからですね。現代でも、田舎に家族をむりやり連れてきて孤立させる、理屈っぽいインテリで家族を不幸にしてるやつって結構いますよね。

 ここで、私は、紫式部の生い立ちが源氏の物語の低層に反映されて、やっと表に出てきたと思っています。彼女は不遇なインテリで地方役人をしていた男の娘なんですね。母を早く亡くし、たった一人の姉も若くして亡くしています。彼女が描きたかったのは父というものが含む世の中なんだと思います。物語を通してそういった不合理にこたえをもとめていたんじゃないかな。権力やらシステムで人がゆがめられていく。

 宇治十帖は主人公が観念のせかいの人なんで、彼女が亡くなると面影を求めて、妹の中君、腹違いの妹の浮舟とさまよっていきます。自分のなかの幻想を求めてるんで、もてるわけがない。それらの人にことごとく裏切られる。面影を求める人をリアルに描くとそうなるんです。

 ヒロインは浮舟です。皇女の理想を求め、教養がないとか、幼いとか、薫は常に身分の低い彼女を貶めます。浮舟は誠実であわれな薫を気の毒に思いますが、華やかで欲望に忠実な源氏の子孫、匂宮にひかれていきます。でも、彼は快楽主義者なんですね。常に欠落を埋めていくんです。そして、どちらにも大切にされないと悟って、彼女は自殺をはかってしまう。そして、若いがゆえに死にきれず出家します。今まで出てこなった抗議するヒロインなのですね。今までついてきた読者に刃を突きつける。

 私は浮舟のお母さんが結構好きですね。この物語の救いかもしれません。彼女は八条宮の妻の親せきの女中で、彼女をなくした宮様に同情してくっつくのですが、妊娠したら、おれは仏教を研究する、女は絶ったからって、粗末に捨てられてしまいます。それでも、さっさと裕福な地方役人とくっつくのですね。その中でも娘に愛情深く接します。美女になった娘が田舎の有力な人に求婚されるのですが、力のある夫の娘に乗り換えられます。そして、夫や実の娘でもそういうことが平気な人をほっといて娘と上京するのです。愛人になった娘に妥協はもとめますが、意思のある人です。モデルがいたのかもしれませんね。

 しかし、世の中は厳しい。せっかく仏門にはいったのに、薫に見つけられたことを知った助けた人たちは還俗をうながします。有力者の愛人であることのほうが尊いってことなんです。これは幼くして妻にされる若紫と同じですね。権力の力でいくらでも人生はたわめられるのです。物語はその答えをもとめて始められました。

 つらつら、源氏物語について書いてみましたが、若菜が一番難しかったかな。この時代の恋愛は、男が押しかけることから始まるからです。今でもごはん食べただけで、好きにしていいんだという男がいるくらいなんで、女二宮の欲望と絶望の加減が説明しづらいなっと思うし。自分の中の鈍感さをあぶりだされるようでつらかった。やはり、「若菜」が源氏物語のクライマックスなんだと思います。書いてみて、たしかに以前より柏木はわかったような気がします。世の中に甘やかされて、承認と愛情がごちゃ混ぜになっている男ですね。相手をみてないので、愛されないわけがわからないので破滅的になってしまう。

 このつらつらした文章は主に学生時代とその後の読書の感想みたいなもんなんですけど、その後の新しい研究とかあったら教えてください。まず、最近、映画「愛がなんだ」で注目した角田光代さんの「源氏物語」の現代訳読んでみたいです。

 この文章はやっとこさ書いたので、これからも修正もちょこちょこしていこうと思ってます。では、読んでくれてありがとうございます。

 

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 宇治十帖を時代変化的に語ったものです。男の作った社会を支持してるのは女なんだってことを書きました。

 

愛がなんだ (角川文庫)

愛がなんだ (角川文庫)

 

 これから読んでみたい本です。源氏物語の現代訳はきっと若い人への入門編になると思うよ。でも高いんですよね。図書館にあるかな。

 

 

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