oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

ノスタルジーだけでは「焼肉ドラゴン」

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 映画館でえらく力が入っている宣伝を見て、よさそうだけど、今更、映画化かあって思った。韓国映画は韓流ブームが終わり、名作があっても、東京の名画座系の映画館でちょこっとかかるぐらいだ。まして、在日の人々のはなしだ。

 原作は、弟が、原作の舞台を見に行ったりしていて、気にはなっていた。新聞で、韓国でも上演され大ヒット、初めて、在日の存在を知らしめたということが記事になっていた。在日の人たちが、李朝の流人の島、済州島の出身が多かったこともあってほとんど知られていないこと、祖国を捨てたということで差別があること、そして、帰国した人が隠してすごしていることを初めて知った。

 大学のころ、阪急電車で、高校の同級生と再会した。同じ中学から進学した男子がソウル大学に入学して、エリートになって祖国に帰れてよかったと、すごくで喜んでいたこと思い出した。梅田駅で彼女と別れたとき、わけがわからなく、ものすごく、腹が立ったのを思い出した。

 口も聞いたこともない人気者の彼に対しての嫉妬かなと思った。しかし、読んでみて、エリートの親せきに囲まれ、成績がわるく、女であることでも差別されていた私は、そんな簡単なもんじゃないって、言葉にできない感情があったんだとわかった。そのころは、私は、まだ、北朝鮮への帰国事業の悲劇も知らなかった。町の人たちは、ときどき、帰国して、おみやげを配る北朝鮮籍のひとを喜んでいた。 

 映画を見て、そんな、複雑な立場の在日のひとたちの想いと町のひとの信じたい思いに涙した。そして、差別と暴力に満ちていたが、深くかかわりあった日々を思い出した。素晴らしい戯曲の言葉の力が、焼肉屋の三姉妹を演じた女優たちの名演技を引き出している。井上真央の思い切った演技がすばらしい。桜庭ななみの韓国語の捨て台詞も切れがあった。彼女、中国語、韓国語を真剣に勉強してたのか。真木よう子のおさえた演技も色っぽい。セットの素晴らしさ、焼肉の匂いの感じられる映像もよい。なによりも、この映画は時々はさまれる韓国語にしっかりとした字幕がつく。それこそが、映像化の意味だったのだと感じた。

 受けである大泉洋をはじめ、脇の演技もいいが、在日の両親を演じた、韓国人俳優二人の演技が胸をうった。不法占拠の接収に来た役人にあらがう夫婦、三女の結婚に対しての、たどたどしい父の日本語の人生を語る切実さ、そして、ぐっと泣かされて、笑わされるラストのふたり。この芝居に、韓国人と日本人の俳優のことばの演技のうわずみを取り込んでみたい。それが可能になった今の映画化のしあわせな結果なんだろう。日韓の俳優がともに参加できる世の中の変化があってこそだ。

 このラストでふいに浮かんだのが、松竹新喜劇でみた「桂春団治」の幕切れだ。藤山寛美の喜劇は話がすごく暗い。しかし、そこに笑いを絡めていくタイミングが絶妙なのだ。たぶん、「焼肉ドラゴン」は、歌舞伎から始まる、日本の大衆演劇の方法や作劇を引き継いでいる。そこも涙した。

 完成された舞台の映画化で、ワンセットで展開される構成上、どうにも映像としての動きがとぼしいところが気にはなる。そこでは、息子の悲劇も象徴的にえがかれて、強い力があったのだろうなあと思う。それにしても、この映画は、これからの社会の方向性を示す力強さがある。

www.yakinikudragon.com