oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

「カラフル」原恵一の世界を読み解く2

 さて、「カラフル」は、「風に舞い上がるビニールシート」で直木賞を取った森絵都の児童小説だ。大型書店で、偶然、平積みで置かれていたので、予習した。

 中学生の自殺を真正面から描いて話題になった原作と、アニメのちがいは、母親の不倫のあつかいだ。原作では、夫にほっとかされ、自分の平凡さに耐え切れず、いろんな習い事を渡り歩き、ついに、フラメンコ講師と浮気する。退屈しのぎということだ。こどもには残酷だ。しかし、彼女をふくめた人のいいかげんさが、自殺の原因なので、この原作はリアルなのだ。

 出版直後の森田芳光の実写版では、あっけらかんということで、エッセイストの阿川佐和子が演じていたらしい。原作の父性の影もあったんだと思う。ちなみに、主人公の少年を演じたのは「KAT-TUNE」の田中聖だった。彼も絵が好きだったね。

 アニメでは、嫁という機能でしか認めなかった、介護した亡くなった夫の母との葛藤が原因であると、夫によって語られる。どうなのかな。漠然とした方がリアルだな。個人としての主体を持ちたいという、彼女の切なさはわかりやすくなった。

  アニメは、この母のエゴと息子の葛藤がたべものという形であらわされているのは、うまいなッと思った。対談によると、特にたべものと食事のシーンを大切に、手間をかけて、アニメ化したらしい。たべものを与える、受け取るということは、信頼があってのことで、世界への信頼をなくすと、人は簡単に拒食や過食に陥ってしまう。そして、食卓を囲むことで、その共同体のメンツの気持ちがあらわになってしまう。

 そういった描写をへて、映画では、原作にはない、食卓のシーンに山場が持っていかれる。木下恵介制作のドラマの山田太一脚本を再現したらしい。そういえば、かつてのホームドラマ、食卓のシーンが多かったです。

 ここで持ち出されている家族の提案は、一見、彼を救うように見えるけれど、相変わらず、彼を特別あつかいすることで、家族を固定化しようとする。でも、彼が本音をはき、突破できたのは、初めてできた親友、他者の介入だ。

 彼との関わりは、アニメでは、かなり丁寧に描かれる。それは、過去にあった、近所の路面電車の跡を探検するというかたちだ。たぶん、世界が過去と現在で重層的なことをさぐる冒険ということなんだと思う。原作にもある、「ごめんそうろう」の店の画面も、これから彼が出会うであろう、多くのひと、出来事の象徴でごたごたしている。ともだちとのエピソードの重視は、原作よりも、主人公のこれからが大切にされている。

 信頼をとりもどしたこのシーンを見終わって感じるのは、この食卓は、これから、子供たちが去っていくだろうとの予感だ。家族の形が変わっていく。そして、映画は親友との交流で終わっていく。

 このあたりは、原恵一は、ずっと、親子のことを描き、こどもの立場で描いてきたひとなんだろうなっと思う。今回のことで、監督の初期の代表作「エスパー魔美」、あれは画家であるお父さんのヌードモデルである中学生、魔美が、大人っぽい高畑さんというボーイフレンドに気持ちをうつしていくという話であったなあと思い出した。本作の大人目線な親友って、彼に似ている。

 藤子不二雄Fの漫画には、「しずかちゃんの入浴」といった、子供っぽい残酷なエロがある。そのなかで「エスパー魔美」は、親にとっての特別な存在で、境界線があいまいな関係が変わっていく、それをどう受け入れるかを描いた、パーソナルな異色作だと思っている。魔美は、なぜ、エスパーになったのか、考えてみる必要があるかも。 そんな扱いにくい原作を、高畑さんを強調して、世の中の複雑さをかいまみながら、魔美の日常的な変化をえがくことで、社会化していく、それがあのアニメの面白さだったんだと思う。

 最新作の「百日紅」でも偉大すぎる父、北斎に寄り添う、おえいの精神的な自立が描かれている。おえいのしごとは、ここ30年ほどのあいだに発見された。私が、はじめて、おえいのことを知ったのは、戦前に書かれた「江戸から東京へ」という東京の地誌的な本だった。そのころは、北斎を支えた娘という紹介で、画業については知られていなかった。土俗的な尻尾をまとった家族から、女性の個人をすくいとるのは、最近のことなんだと思う。

 生身の人間である親のことを、こどもは、どうとらえていくか。親はそのことをどう扱っていくか。原恵一監督は「クレヨンしんちゃん」を含めて、ずっと追求しているように思う。次回作が、もうすぐだそうだけど、それはどうなるのかな。もっと違う世界に飛ぶのかな。興味ぶかい。

 町山さんの監督の映像体験へのインタビューを聞きながら、家族の変化の意味、戦前の松竹映画からの家族をえがく流れってなんだろうと、考えさせられた、ひとときでありました。それに私は、なぜこだわっているのかも。

 そういえば、木下監督の最後の作品、「香華」は好色で身勝手な母を嫌う娘の話だったなあとか、女性の主体性と子どもとの関係って、けっこう、今日的なテーマだなあと思ったりした。

  

 

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