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oohaman5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと、書いています。

映画「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人 事件」ざわざわする思い

 


『牯嶺街クーリンチェ少年殺人事件』予告

 

 めったにないことですけど、台湾の映画、エドワード・ヤン監督の「ヤンヤン 夏の思い出」のレンタル料を滞納してしまって一万円になったということがありました。内容はぼんやりしていて、イッセー尾形が面白かったなあと覚えています。そんな気持ちをざわざわさせるヤン監督の代表作  「クーリンチェ少年殺人事件」をやっと見ることができました。版権がややこしかったりでレンタルもなかったなか、スコセッシがお気に入りで、デジタル化して美しくしてくれたみたいです。 感謝です。

 まず、冒頭の背丈の不揃いの中学生が、夜の学校でぞやぞや群れているすがたにグッときました。そうだったよなあ、この年齢の子たちはそれぞれに発育が違ってきて辛いのだなあ。お互いの能力のちがいもわかってくるしね。主役の少年を演じる、今はアジアを代表するスター、張震の足の長さ、肢体の美しさは際立ってますね。ヒロインの女の子もどうしようもなく性的な魅力をはなっています。ちょっと、若い頃の大竹しのぶを思い出します。魅力的な子であることは、彼らが主役だからじゃないんです。そういったふぞろいななかで飛び出した、大人の手に負えない子たちの悲劇をリアルに描くためなんだと思います。

 暗闇のなか、背が低くて子供っぽい小猫王とあだ名される子がけんかで暴力をふるえなくて、他の子がそれをあざ笑って使うことから始まるのが、暴力と性は同質にあることを象徴しています。むせかえるような湿気が感じられる台湾の夜、人間が動物として解き放たれる、そんな夜の光景です。そういう、性の魅力と社会とのギクシャクがこの年代の辛さだなと思います。そんな、あまたあるこの時期の悲劇を真っ正面から描くのって勇気がいります。まして、その背景にある社会の中の理不尽までも、えがくことは簡単じゃない。

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 思い出したのは、最近起こった川崎の少年殺人事件です。中原中也の詩のフレーズ「よごれちまった悲しみに」ではないですが、テレビやなにかに、もみくちゃしされて、ひとは本質的な問題に目をそらしてしまいます。やはり、それは表現という曖昧模糊なものでしか、語れないのではないでしょうか。

 しかし、1960代の台湾には暴力がそこらへんに転がっていたのだなあ。戦後、捨てられたであろう占領期の日本家屋に隠された刀、そして頻繁に道を通る戦車、銃。暴力がそこそこに転がっています。台湾は中国本土から国民党系の人たちが入ってきて、対立がひどかったのだな。そのなかで、中国から来た国民党系の両親の迷走ぶりは痛ましいです。そういう時代、そういう場所では、ダメな大人たちはこどもたちの変化を支えきれない。 

 古くからある中国系のコミュニティをめざして、アメリカに行くということに強いあこがれがあったのですね。かつて、台湾人のひととお仕事したとき、テレサ・テンとか聞くんですかって聞いて、えらくしかられました。私はかつてビートルズファンだ、あんな古臭い音楽は聞かないっと言ってました。この映画のなかで、ずっと、甘いプレスリーが流れていました。きっと、台湾の街のほうがずっと洋楽がただよっていたのだな。60年代はみんなそんなに洋楽聞いてなかったよ、日本では。彼女は日本はこどものざわめく声やひとたちのにぎやかな話声がしなくて寂しいと言っていましたが、みなが台湾に惹かれるのはそういって人間の気配がまだあるからでしょう。

 プレスリーを裏声で歌う小猫王は大人を夢見る少年です。彼のこだわるエロ本、プレスリー、その只中の子は、もうそんなもの興味がないのです。まして、その闇にはまってしまった少年に会いに行くのは、まだ、夢見ている彼だけです。

 この映画は日本映画にも影響与えてるなあと思います。というか、エドワード・ヤン自体も日本映画の影響を受けてるんでしょうけど。十代をえがいた秀作、北野武の「キッズリターン」、「桐島部活やめるってよ」、そして、是枝監督の「誰も知らない」日本映画はこどもを描く伝統があります。そのなかでも、中学生の性と暴力、そのことはかつて、未開の社会では、人間にとって美しいことだったわけでもありますが。そしてその背景にある社会の矛盾。なまなかな気持ちと力量で描けるわけじゃないです。

 親や先生、ダメな大人ばかりでてきますが、不良の若者のボスの女である、少女の親族の女性が少女を抱きしめるしぐさ、事件に巻き込まれる少年少女を痛ましく思う若い警官のまなざし、ちょっとしたシーンですが、ほのかな救いがあります。闇の中に光る懐中電灯のひかり、笑いを誘う学校のお隣の撮影所の滑稽さ、子供たちのかなでる吹奏楽、かつて日本人街だった場所のふすまのある室内のたたずまい、そして、南国の台湾の雨のつややかさ。なんとも言えない、美しい光景が点在します。そして、容赦しない暴力の描写。自然の豊かさの中で人間たちのおろかさが繰り広げられるそんな映画です。

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 四月も都内でちょこちょこ上映されてるみたいです。長いけど見ごたえあります。なんだか、彼らと同じ、十代のざわざわした感覚がよみがえってきます。子供たちの春から夏への変化を描いたこの映画、とりとめない感想になりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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