oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

マンスフィールド・パーク 本質的なモラルって考えてみる

 オースティンの小説で、そういえばこれは読み忘れていたと思って、読んでみた。結構、時間がかかったのは、心にいちいち刺さったからだ。そして、人生を経験してこそ、この小説は面白い。主人公は大きなお屋敷マンスフィールドパークに養女にもらわれた子沢山の海軍将校の娘ファーニーだ。階級のちがう彼女は家族に軽んじられて成長するが、いじけたところがあるが、思いやりがある賢い女性に成長する。そして、彼女をかばった従兄弟のエドモンドを密かに慕う。牧師をめざす、生真面目な青年だ。だが、親戚のグラント牧師を訪ねてきたクロフォード兄弟の妹メアリーに恋する。しかし、単純な彼は彼女の美しさや賢さ、趣味の良さに夢中になるが、自己中心さに気がつかない。一方、兄のヘンリーはエドモンドのわがままな姉たちを弄ぶが、いつしか、純粋なファーニーに恋する。ふたりが彼らに恋をするのは、親族にネグレクトされて、お金でごまかされて生きていた彼らが、愛情深い彼らの生活のすばらしさがわかったからだ。しかし、もともとの愛情の欠乏からくる精神的な不安定さを目先の欲望や虚栄心でごまかしていた彼らは、その愛情をどう得ていいかわからない。

 牧師をめざすエドモンドを妹のメアリーは収入もなくつまらない職業として貶めて、自分の思い通りの仕事につかそうと誘惑する。それに対して作者を代弁したファーニーは、兄弟の親族、グラント牧師の贅沢でだらしない生活を認めながら、そこにある信仰への純粋さを指摘する。それがなければ、もっと堕落したいやなひとであったろうと。ひとのダメさがわかるかしこさで、メアリーはエドモンドをまどわせているのだ。そして、エドモンドの姉たちを弄んでいたことにに不信感をもっているファーニーに本気で恋した兄も彼女の愛をえるには、他者に対する思いやりであることがわからず、じりじりとあせって、結婚したエドモンドの姉に不倫をしかけて、簡単にファーニーに満たされない愛情をごまかしてしまう。

 リアルな現実は、人におとしめて、自分の欲望をみたすだけでは、根本的な安定をもたらさない。いまどきもそうだけど、気の利いた言葉、からかい、そして、かっこよく揚げ足をとることが、その人の知性だと思われている。ずるがしこく、大きな利益をえることだ。だが立ち止まって考えてみよう。前作の「自負と偏見」の主人公たちは、賢いひとたちだった。しかし、彼らがなぜ幸せを勝ち得たかというとモラルがあったからだ。そのうえに、機知やユーモアがあったのだ。だが、この小説の兄弟の賢さは身勝手なゴリ押しのために使われている。そうった人たちは、一見かっこいいのだ。でも、その心の荒廃からくる欠乏感は息苦しい。それが何かは説明しずらい。でも、この小説を読むと、それが人の行いを尊重することだ。人の切ない建前を大切にすることのように思った。それが、具体的で、面白いストーリーから浮かび上がってくる。ファーニーが社交界にデビューする舞踏会の描写のワクワクとした不安定感などたまりませぬ。

 この小説が面白いなあと思うのはもう一つが視点がきちんと複眼的にあることだ。クロフォード氏の求婚を断って、家長のトーマス氏に実家に返されたファーニーが、改めてお金のありがたさ、地位のありがたさがを実感するところだ。マンスフィールドパークが素晴らしい場所であるのは、お金あってのことだ。あってこその愛情深い生活だったのだ。メアリーがお金にこだわるのも一理あるのだ。そして、トーマス氏が怒ったのもそこにある。確かにお金のない実家の家族は余裕がなく、だらしなくてガサツだ。しかし、彼女は両親は問題があっても、彼女に愛情があり、善良なひとたちであることを彼女に会いに来たクロフォード氏への態度をとおして知る。子沢山で疲れており、さわがしい都会の社会にいるために、立場の弱いファーニーの期待に添えないだけなのだ。そして、遠くに住んでいて年月を共にせず家族として縁が薄いことも読者にはわかる。登場人物それぞれの視点にそれなりの理由がある。

 作者オースティンの人間に対する冷静な観察のするどさに驚いて、細やかな表現がたのしい。そして、そんなもんだよねって深く頷くのだ。でも、彼女は人間に対しての希望を失っなっていないのだ。

 

マンスフィールド・パーク (ちくま文庫)

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  映像はオースティンが軽く触れているマンスフィールドパークの植民地経営が家族にもたらす退廃についても描いているようです。たぶん、それは次の世代の小説家が描いたテーマですね。