oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

村上春樹「職業としての作家」

 

 

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 新作は文庫化してから読むことが多いのですが、久しぶりに単行本で読みました。

はてなさんでやっていた「村上さんのところ」のまとめ本も気になったんですけど、それを含めた村上春樹の最近の心境を知りたくて、こちらを読みました。同じ時代の空気を吸っているということ、音楽のライブを見ているようで、やっぱりいいです。

 まず、表紙の荒木経惟の撮ったポートレートの厳しい顔が印象的です。ふだんはおだやかな写真を使っていてるので、生身をさらした感あります。読んでみると、今までのエッセイにあったプライベートな心境のまとめ的なもの、読者への感謝であり、そして、新たな長編への決意が書かれています。

 今回は、奥さんと作品の関係がはっきりと書かれており、なんとなく感じていたことが明確に説明されていてよかったです。まず、最初の読者が妻であり、彼の小説に共作に近い部分があるというのは、なんとなく感じていました。彼の小説の核心にふれる、大切な告白だと思います。真ん中に唐突に「学校について」の章があるのですが、その中で、さりげなく、村上作品の初期のモチーフである羊について書かれているのも、面白いです。

 村上春樹が読者について感じていることがしっかり書かれていて、読者への信頼を感じてもらっていることにほっとしました。深い地下の水脈の中でと、いつもの村上春樹の言い回しですが、正面切って語られると心強い。私はお見合いとか養子とりとかが普通に語られる家庭に育ち、まわりもそういう価値観の人に囲われていました。なので、とりたてて、恋愛とかしたことがないです。ただ、そういった価値観が壊れていって、それに取り残された人たちを見てきました。彼は世界中の伝統的価値観が壊れていて、とまどっている人たちに読まれているというのが、自らの文学が受け入れられる理由に感じられるそうです。そういった意味では、私には、読むべき必然があったのかと思いました。

 脇にそれますが、好きな女流文学者としてジェィン・オースティンをあげていて、彼が全部読んでいるのを知って、嬉しかったです。私の大好きな作家のひとりです。彼女も台所で小説を書き始めたひとでありますね。

 これから書かれるであろう、新しい長編小説読みたいです。

 

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