oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと、書いています。

小津安二郎 晩春 変化へのおそれ

 この前、本棚を整理していたら、小津安二郎の「晩春」が出て来て、ああ、この映画は私には、胸にささるんだなあと改めて思った。「晩春」は、1949年に鎌倉を舞台にした、原節子をはじめて主演すえた映画だ。彼の映画は、結婚する女の話を何度も繰り返している。その代表作だ。ああ、辛いなっと思ったのは、私も30前ぐらいのとき結婚したので、これをみると、あの頃のもう親と暮らすには自我が強くなって辛い気分、そして、親の庇護から逃れるのが怖い気持ちがよみがえるからだ。特に、主人公の典子が能を見に行ったとき、彼女が父親の見合い相手の三宅邦子をみつけ、じっと見るシーンは怖かった。この映画の親子の内面的な葛藤は、特に海外では、フロイト的な性にこじつけた解釈がされがちだそうだ。一緒に親娘が旅行にいくのが、欧米ではありえないからだ。でも、私には、父が典子を子ども扱いし、典子も子どもを演じているのだとみえる。それをふたりが受け入れているのは、典子の中の子ども時代への執着と親の現役感への執着だ。

 この映画は、世の中ががらっと変わってしまった第二次大戦後1949年に撮られた。映画の中では、鎌倉で能を見たり、きれいな着物を着たり、表面は戦前と変わらない生活が映されている。でも、実際はそこに住む人々も家族を亡くしたり、文化が否定されたりして、傷ついていた。かつての時間への強い思いがあっただろう。そして、小津安二郎は人の子どもだけである独身をつらぬいた人だ。すばらしい仕事というものはあったろう。しかし、人としてつがい子どもをもつ人生を横にほってしまった。私は、彼の映画の素晴らしさは、自分を含めた人間への冷静な観察にあったと思う。それは、彼が人のなりわいからドロップアウトした、心の澱からこそ得たんだと思う。イギリスの作家で、やはり結婚をテーマにひつこく書き続けた作家にジェーン・オースティンがあるが、彼女も生涯独身だった。結婚話って、身もふたもない現実がみえて、面白いのだ。

 昔、まわりの人に結婚しない人はヒステリーになるだとか、性格にくせがでるとか言われて反発した。いかにも、結婚してない人を少数派にして差別する感じではないですか。でも、30前ぐらいになると、確かに我が強くなって来て、自分も周りも困ってくる。男である夫も、結婚後、結婚しなくて、俺どうにかなるんじゃないかと思ったらしい。友人に切実に家を出たいんだけどと、相談されたりもした。その後、彼女は、最後に残った田舎の幼なじみと結婚した。結婚は、自分の中の子どもにふりまわされることからの脱皮のチャンスのひとつなんだろうと思う。親といるとその子どもが支えられますもんね。独身で、一度も親元を出たことのない人は、体からの成熟をみせないよう、子どもを演じるのが端から見るとつらそうな人が多いように感じる。三砂ちづるさんの本「オニババ化する女たち」読んだとき、この映画が思い浮かんだ。お産のされた方は、前より元気になったと感じられる方は多いと思う。もちろん、昔だとお産でなくなれる方も多かったわけだが。しかし、人間という動物が子どもを産み、はぐくむことが前提で生かされていることは事実だ。生理的な無理が、心をすさませるということは、偏見だけでなく、客観的な根拠があると思う。この映画のすごいところは、30前の原節子を通して、小津が無意識に肉体の要求が変な形になる寸前を描いていることだ。

 それを強く感じたのは、小津の遺作である「秋刀魚の味」で描かれる、かつての恩師である東野英治郎演じる父と、杉村春子演じる美しい娘だった人の無惨な生活だ。年老いて、親子を演じきれない娘は親にあたって生きている。動物である親と子は別れる運命なのである。どこか、微苦笑を感じさせるその描写のもとは、小津自身でもあったかもしれない。そして、笠智衆演じる父は、将来ああいったふうになるのを恐れ、岩下志麻演じる娘を嫁にだす。人間は時間によって変わる。それを受けいれることが、生きる知恵なんだとしみじみ感じた。

 今ごろ、お見合い結婚の話なんかドラマにもならない。しかし、30すぎて、だらだらと何年も同棲なんかしているカップルなんかを見ると、生理的な問題は解決しているけれど、親の介護、子どもを持つこと、ふたりの健康の問題とかから逃げていると思う。一緒に長く暮らすということは、本来そういったことも助けあうためだ。男女の関係が社会化された結婚は、煩わしいし、小津が独身を通したようにどんなふうにも生きてもいい。しかし、何を選んでも、同じ時間は永遠に続かないのである。子どもから、大人に、そして死んでいく。周りの人も社会も自然さえも変化していく。晩春という季節がこの映画の題名についていくように、季節はめぐるのである。私は思うに、この映画のテーマは、時間の変化を受け入れる覚悟のような気がする。それは、いつの時代でも大切なことだと思う。

 

 

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