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日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

光ある世界 宮本輝 「幻の光」

 是枝 裕和の映画監督デビュー作が宮本輝の「幻の光」である事に、興味を持ったので読んでみた。1979年には発表されている、初期の短編だ。そのころ大学のテニス部を舞台にした「青が散る」がドラマになり、同世代の人も宮本輝を結構読んでいた気がする。それから15年後の1995年に映画化されている。宮本輝は、大阪を舞台にしてて、古風なところのある作家で私よりもかなり上のひとにも人気があり、よく読まれていたので私も読んでいた。そのなかでも、この短編は、大阪ものではないし、地味そうだったので読まなかった。それに、私は彼が「避暑地の猫」あたりから、性のじめじめしたところをおおっぴらに書き込むようになったので、うっとしくなって、村上春樹をはじめ、新しい生活感のある小説に目が向いて行ったのだろうと思う。しかしながら、今、時間が過ぎて俯瞰してみると、どちらも戦争で内的な変化を経験した年配の親から戦後産まれた一人っ子で、子だくさんな団塊の世代のなかでは、異質な存在だったんだなあと思う。

 宮本輝はなんやうっとしいというのが、その当時の私の感想だ。確かに多くの工場が再建されて、経済的には栄えて来たけれど、裕福で知的な資産をもつ人々は、芦屋を中心とした神戸や万博で新しい町ができた近郊に、東京に行く。バイトしてた近くの船場のさびれたアーケードの暗さがたまらなくいやだった。しかし、私はその町に育てられたのだ。身近にある本屋さんでは主に山本周五郎が文庫の中心だった。私はほとんどの作品を読んだ。どうやら、同じように山本周五郎が文学作品の入り口のひとつだった宮本輝は、わたしにとって気になる存在である。特に、「避暑地の猫」は、貧乏が富に対比されることで、モラルが崩壊していく人々が書かれ、印象に残っている。これは、冷徹な社会への観察の現実であろう。檀蜜が宮本輝を愛読していて、最初に感銘をうけたのが、この作品だったのだというのは、なるほどなあと思う。その辺りのいろんな現実への思いを表に感じたくなかったのだと思う。しかしながら、宮本輝は、新しいものを吸収して書き続け、現役の作家として進化していったようだ。

 最近、毎日新聞で連載されていた「三十光年の星たち」を読んで、そのかろやかさ、上品さを感じた。どろどろとしたものを浄化させた希望を感じさせる作品だった。この小説は、彼の親子関係を反映しなんども繰り返される若い人を導く老人との話が展開される。そのなかで中期にあった宮本輝のなかの人間関係の怖さはさらりと背景になり、若者の光の部分に焦点があたっている。なんだか、希望を感じさせる終わり方だった。読んでみて改めて、過去作を読んでみたいと感じた。特に「幻の光」が読んでみたかった。

 で、読んでみた感想である。「幻の光」は、宮本輝が仕事に失敗した父と、能登で一時的に暮らした10才ごろの体験を元にしているらしい。主人公は、若くして、祖母、夫を亡くした女性で、彼女が能登の子連れの男性と再婚して、亡くなった夫に語りかけながら生きて行く物語だ。彼女が育ち夫と死に別れる尼崎の場末の生活の情景と、冬の能登の風と海にまみれた鈍色の風景が対比的にえがかれ、死と生のあわいを感じながら、現実を生きて行こうとする姿が、簡潔な言葉で描かれている。彼女が死のある場所にひかれそうになると、たくましい生がひっぱりあげてくれている、そんな感触がある小説だ。そして、作者の内側の体験から、一歩離れて、多くの死に近づいていっている人に働きかけた作品だと感じた。

 なんか、しっくりいかなくて、改めてまとめ直しました。なんだか、言葉にできなかった思いがあります。

 

避暑地の猫 (講談社文庫)

避暑地の猫 (講談社文庫)

 

 

 

幻の光 (新潮文庫)

幻の光 (新潮文庫)

 

 

 

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