oohama5656's blog

日々の思いを言葉に出来るといいなあと思っています

ムーミン谷の彗星

 

ムーミン谷の彗星 (講談社文庫)

ムーミン谷の彗星 (講談社文庫)

 

 

 ムーミン展にいって、是非読んでみたいなあと思った本は、「ムーミン谷の彗星」だったのですね。挿絵が、ダイナミックで、深いのです。おまけに、いくつものバージョンがあって、トゥーベ・ヤンソン絵物語として読むなら、これかなと思ったのです。たまたま、天満筋の古本屋でみつけたので、読みました。

 このお話は、彗星が地球にぶつかりそうになり、ムーミンとスニフが、それを確かめにおそろし山の天文台にそれを確かめに行き、途中ではじめて出会ったスナフキンスノークのお嬢さんとムーミン谷のみんなを助けに行くというお話です。

 彗星がぶつかるという災難との戦いの話なので、不気味で、神秘的で、怖いお話です。ほのぼのとしたムーミンの小説のなかでも、異色ですが、これが、最初のころに書かれました。もともと、ムーミンは、フィンランドソ連との戦争で傷ついたトゥーベ・ヤンソン自身のために書かれたようです。なんでも、女である彼女自身も戦闘に参加してないとしても、従軍しなくてはならないような、全国民が武器を取らざる得ないような戦争だったようです。

 展覧会に行って、水木しげるに似ているなあと思ってたけど、やはり、特集本なんかでも指摘された方がいたようです。これは、ひとつに、ふたりとも、西洋中世の風刺画を勉強していたんじゃないかと思います。トゥーベも、美大でみっちり伝統絵画を勉強していたようです。

 もうひとつは、とんでもない戦争体験をしていたということでしょう。水木しげるの語ることには、一生かかって、妖怪を妖精化するのが、絵を書き続ける目的のひとつだったと語っています。ムーミンも、最初、戦争中の風刺画にあらわれ、そして、子供たちをなぐさめる存在になっていったのは、おもしろいなあと思います。

 そんな背景をもつ、この小説は、混沌としたストーリーですが、世界が終わるかもしれない恐怖を描きながら、どこか、冷たい笑いをふくんだユーモアがあり、がむしゃらな前向きさがあるのです。何しろ、大人なスナフキンとガールフレンドのスノークのお嬢さんと出会って、新しい展開の始まりの物語なのです。ほのぼのとした、ムーミンの元にあるものは、なにか知りたい人には、面白い小説でした。

 また、解説にある、ムーミンを発見した訳者の下村隆一さんの人生もなかなかに興味深い話です。ここにも、ムーミンの魅力をとくヒントがあると思います。

 この話のながれで、水木しげるをどう思っているかも、いつか書いてみたいなあと思います。